眼力社を代々お守りされている小柄な女将は
お馴染み 服部さん
“服部さんは2022年2月をもってこのお仕事をご勇退されました。現在は大西さんという男性が守役をしておられます。”
眼力社の向かいのお店では、お参りのろうそくやお供え物を販売していただけます。そこの女将、服部さんは代々この地で眼力さんをお守りしてきました。
お参りに訪れる人をいつもあたたかく迎えてくださる服部さん。誰にでも親しみやすく前向きな姿勢が心地よく、加えてとてもパワフルな方です。
夏は暑く冬はとても寒いといわれる京都の盆地。眼力さんがある稲荷山の冬もとても厳しく、1月の大寒の日ともなると、ろうそく立ての中の水や防火用バケツの水も凍りつきます。
丁度そんな日にお参りしたときの私の格好は、セーターにフリースのうえからウールのコートを着込み、まるで雪だるまです。眼力さんに着く頃には吐く息もいっそう白く、周りの寒さも下の本殿とは格が違います。
ところが驚いたことに、いつものように笑顔で迎えてくださった服部さんは何とダウンベスト1枚でテキパキ仕事をこなしていました。
代々この地で眼力さんのお世話をされている服部家。小さい頃から学校に通うのにもこの山の石段を上り下りしていた服部さんは、稲荷山の寒さ暑さにはもう慣れっこなのです。
とはいえ、服部さんよりずっと若く元気なはずの自分の格好が、ちょっと恥ずかしく感じました。
いつも優しい笑顔で、眼力さんをお参りした人と話される服部さん。その言葉のなかには何故か、心がふっと軽くなるものが含まれているのが不思議です。
知って知らずかそれに癒されにここを訪れる方も少なくないのでしょう。眼力さんにお参りしたら、服部さんに少し話しかけてみてください。話しているうちに日頃、心に溜まったもやもやしたものが、きっと晴れていくことでしょう。
暑い夏も寒い冬も、元気な笑顔で私たち参拝人を迎えてくださる服部さん。その日は、そんな服部さんのパワフルさにはかなわないなと感じたことが嬉しかったお参りでした。
眼力社の周りは湿地帯です。
その済んだ湧き水は、夏になると菖蒲や水芭蕉、あじさいに花を咲かせます。ほかにも大木の根元にたくさん生息しているコケ類は、この辺りで年中見られる植物です。
「このコケ何て名前ですか?」
ある日のこと、つくしのような面白いコケを見つけた私は、服部さんに尋ねてみました。
「こっちはスギゴケ、こっちはミズゴケ・・・」
小走りに眼力社の周りをあちこち駆け回って丁寧に一つずつ教えてくださる服部さん。私は、植物学者にも珍しいというコケの種類よりも、服部さんのそのあまりのお元気っぷりに驚いてしまい、教えていただいたコケの名前を2つしか覚えられませんでした。
寄植
これは眼力さんのお社の入り口に置いてある鉢植え。前を通る人々の視線を集めるこの鉢植えは服部さんが作られました。小さな鳥居を入れて寄せ植えされたこの鉢ひとつに“自分以外を一番に愛でる”という服部さんの優しいお人柄が表れています。
このほかにも京女ならではの感性を活かして小さなガーデニングプランターを作られています。季節によって変化するプランターは毎月訪れる私の楽しみのひとつです。
眼力さんには県外からも季節ごとに訪れるお客様がいらっしゃるので、これらのプランターでその目を楽しませようと服部さんがひとつずつ丁寧に植えられたのかな・・・と思うとこのプランターがとても愛おしく見えてきます。
学者さんも欲しがる珍しいヒメカンアオイ
眼力社付近には学術的にも珍しい植物が生息しています。 姫寒葵(ヒメカンアオイ)と言い、日本では通常、寒い地方や高山に生息している植物です。現在この植物は大阪・京都では絶滅品種に指定されています。ヒメカンアオイは春になると小さな花を付けます。 あまり目立つ植物ではありませんので、日陰にそっと葉を広げる姿が健気ですね。もし見つけても触らないであげてくださいね。 この植物のお世話をされているのも服部さんです。
服部さんを慕う人は日本中にいますが、最近では海外からもお頼りが届くようになりました。以下は新型コロナウイルス感染拡大対策として海外渡航が禁止される前に、眼力さんを訪れたアメリカの旅行者からのおたよりです。
海外の参拝者からのおたより
(翻訳)先日、私はお山めぐり体験の途中、リーとそちらにお伺いし、お茶まで煎れていただき、あたたかくもてなしていただきました。
服部さんからいただいたとても美味しいお茶と、すばらしい言葉…、
本当は神様は私たちのそばに居られるのではなく、私たちの心の中に居られるのです。
この世界にまたとない有り難い言葉に、私は本当に感銘をうけました。
私は67歳、これまで永く生きてきましたが、あなたのような素晴らしい言葉が、私の口から出ることはありませんでした。今私はその言葉を心に強く刻みこみ、抱きしめています。
私の国では人々の貪欲な利益の追求によって自然破壊が進んでいます。心無い人々には、森林はお金にしか見えていないのです。
それに比べ、稲荷山を日々登り降りし、稲荷山や信仰のことを後世に伝えておられるあなたに、私はどれだけ尊敬しても足りません。
お逢いした日以来、眼を閉じてじっと服部さんの言葉を胸に刻み込む日々を過ごしています。私にも何かできないかという気持ちにかられ、近所の清掃を毎日するようになりました。
そしていつも自分で自分に問いかけます、自分は服部さんのように清く正しい者になれるのか?
その答えは、きっと私次第…、誰でも清くなれる。私はそうであると信じています。
こんなふうに私を導いてくださった服部さんに心から感謝しています。
コロラドから愛をこめて
バーバラより
※写真の女の子は同封されていた印刷物のポストカードです。ご本人ではありません。
眼力社のお正月
写真はしめ縄をした眼力さん。お正月は眼力さんもお化粧されます。しめ縄を巻かれた眼力さんもまた一見の価値があります。 このしめ縄は大寒を過ぎて2月1日頃、服部さんによって敷地内で灰にされます。この灰は眼力社や服部さんのお店の建物の周りに撒かれます。無病息災と虫除けを兼ねて一年の無事をお祈りするそうです。 この灰が欲しい方は服部さんに直にお申し出ください。
服部さんはここを訪れる方々のお世話をし、眼力さんに毎日ローソクをあげ、掃除をし、代々この地で眼力さんを守っておられます。いつお参りしても我々を笑顔で迎えてくださり、元気づけて見送ってくださいます。
私は眼力社に行くと実家に帰ったような気持ちになります。日常溜め込んだいろいろな心配事を持って稲荷山に登り、服部さんという母と眼力さんという父にそれを聞いてもらうことで気持ちをきれいにして、また日常に戻っていく。
これを繰り返していると毎月毎月仕事や思うことがスムーズに流れるようになってきたことが、とても不思議です。
〒612-0804 京都市伏見区稲荷山官有地19 眼力大社前 TEL(075)641-6051 (大西)