稲荷山は人を試す
私が眼力さんで知り合った参拝者さんの中に26歳から通い始めて、44歳の現在まで月参りを続けている女性がいます。
この女性は交際相手から勧められたのがきっかけで稲荷山に通うようになりました。
観光にでも行くような軽い気持ちでロングブーツにミニスカート、ベレー帽をかぶって初めてお山を訪れました。
その日は1月の4日でお山は初詣客で賑わっていました。 ある茶店の前で恋人に写真を撮ってもらっていると、茶店の二階部分からものすごい人の視線を感じ、何やらぶつぶつと悪口が聞こえて来ました。
「めいっぱい可愛こぶってんな~」「何いちゃついてんねん!バカップルか?笑笑」
「あのブーツ、穴開いてるんちゃう?」
そんな感じだったそうです。
見上げると茶店の二階部分に女子高生と思われる女の子たちが10人ほどで彼女たちを見下ろして罵声を飛ばしてきました。エプロンをしているあたりから、どうやら臨時のアルバイト店員のようです。
彼女ははっきりと聞こえなかったのと10歳も年下の、しかも神様に仕える場所でまさかそんな愚行を働く人がいるはずが無いと思って気にしなかったそうなのですが、あまりにちょっかいをかけてくるのでもう一度見上げると、その中の一人の女の子がフン!と嫌な顔を見せて来たそうです。
(もしかして…私たちに言ってるのかな??)そう思った瞬間恐怖で身がすくみ、そのまま家に帰ってきたそうです。
今から思えば彼女は童顔だったので16歳の女子高生たちに同世代だと思われ、可愛い格好をして幸せそうに見えたのが嫉妬を買ったのだろうとおっしゃっていますが、当時は訳が分からなかったそうです。自分が一方的にしかも理不尽な攻撃を受けたことに深く傷つきあんなところ二度と行かない!と恋人に宣言しました。
しかし翌月の二月、また恋人から稲荷山にもう一回行かない?と言われました。
先月あんなイヤな目に遭ったので彼女は断りましたが、恋人がどうしても眼力さんに行きたがり、何とかお願いと頼んで来たそうです。
確かに先月は途中でトラブルが起きたため眼力社には到着していませんでした。
彼女は恋人の為なら…と思いしぶしぶ応じました。
今度は無事眼力社への初参りも済ませ、あるお社の鳥居の前で記念撮影をしようとしたときのこと。その際にふと鳥居の脚の台座に腰を掛けたそうです。しかもアングルを変えて何度も何度も自分たちの鳥居のように靴の裏をくっつけてみたり、腰かけてみたり。
翌日、彼女は急激な腰痛に襲われ病院へ行くことになりました。しかしレントゲンを撮っても何も異常はないしお医者さんも首を傾げたそうです。
しかも午後からは立てなくなりました。腰を曲げようとすると腰から足にかけて激痛が走るのです。そして寝込んだまま2日が過ぎました。
恋人が心配してお見舞いに来てくれた時に「もしかして鳥居で写真を撮ってから?」と言いました。
彼女は不思議とその言葉が腑に落ちたそうです。そして心の中で申し訳ないことをしました。鳥居のあった場所の神様、お名前は存じ上げませんが大変失礼なことをして申し訳なく思っています。もう二度と無礼な行為は致しませんのでどうぞ私のことをお許しくださいとお願いしました。
翌日、彼女の腰は何事もなかったように治りました。
この後の三月も四月も彼女は稲荷山に行くたびにイヤな目に遭ったそうです。それは通りがかりの見知らぬ通行人や露天商の店員、神主さんに至るまで様々な無礼な行為、冷たい言葉、いろいろなことが起こったそうです。
しかしすべて実は自分の側に相手を刺激する原因があったのでは?と謙虚に悟ったそうです。
44歳になった今、彼女は会社を経営しています。この18年間一度も稲荷山への月参りを辞めなかった理由は自分は毎回お山から試されていると悟ったからだと教えてくれました。
私は同じような話をほかの人からも聞いたことがあります。そして私自身にも同じ経験があります。
稲荷山は人生の縮図を見せるかのように、見込みがあると思った人物ほど洗礼を行うように思います。
KATO
- 第一話 ここは観光地ではありません。
- 第二話 観光ではなく修行に来てください。
- 第三話 あなたが持っている常識ともう一つ違う、さらに上。
- 第四話 お茶屋さんの抱える葛藤
- 第五話 年末の稲荷山
- 第六話 稲荷山は人を試す
- 第七話 神様はどんな人に興味を持つのか?
- 第八話 罰が当たるとき
- 第九話 外国人向け参拝の仕方